週刊少年ジャンプ2019年12号分の感想です。
 ネタバレを含むので、自分で買ってから読んでください。 


★もくじ
オロチの能力
妖怪同盟軍 VS お庭番衆
小紫への“武士の情け”
ノリノリおリンさん  



オロチの能力

 八つ首の大蛇へと変身する能力を用い、小紫に許しを請わせようとする将軍・オロチだが、彼の持つ能力は「ヘビヘビの実 幻獣種 モデル八岐大蛇」だったらしい。
 これでカイドウの能力も、同じくヘビヘビの実の幻獣種って事でほぼ確定かな。以前にも書いたように、「リュウリュウの実」が示すのは「龍」や「竜」ではなく、「恐竜」という分類みたいね。

 どうもオロチさん自身、惚れた女を本心から手にかけたいワケではなかった様で、小紫が命乞いをしないとなった時は無関係な部下に八つ当たりをかます始末。
 酔っぱらって部下を殴り飛ばすカイドウさんといい、ワノ国のツートップ、身内への当たりが強い。

 部下を人とも思って無さそうなオロチさんだけど、狂死郎が自分の意にそぐわない行動を取った時には、コレと言って彼に手出しをする気配がなく、その怒りを元凶であるトコへとぶつけようとしていた。やはり狂死郎は、陣営の中でもかなりオロチに重用されている立場なんだろう。「オロチ御用達の両替屋」として紹介されていたけれど、実質的にはヤクザである以上に、オロチの幕臣に近いのかもしれない。


 そんな中で、オロチお庭番衆の1人である大黒から出た言葉は中々おもしろい。
大黒「将軍は自由だ 縛れるものは何もない!!」
ONEPIECE 第933話より

 「自由」というのはONEPIECEの物語の中でもかなり大きな意味を持つキーワードだが、この言葉がオロチに対しても使われてくるワケね。

 実際のところ、オロチの「自由」とは他者の自由を奪う事で生み出されているもの。このワノ国編は、今までのエピソードの中にも存在していた「支配者にとっての自由」と「自由を奪われた民衆達」、そして誰よりも自由に生きるルフィが、阻害された自由を奪い返すという対立構造が、より明確に描かれる格好になるのかもしれない。

 ……しかしオロチ将軍、その生き様は本当に自由と言えるんだろうか。
 「将軍」としての権威のため、殺したくない女に牙を向け、「貴様がわしを笑わねばこんな事には」と童に襲い掛かる。自らが敷いた「鉄の掟」に誰よりも縛られているのは、他でもないオロチである様にも見えるんだよなぁ。



妖怪同盟軍 VS お庭番衆

 トコを抱えて逃げるロビンに加え、あらかじめ潜入していたナミ、ブルック、しのぶも城内での戦線に加わり、もはやてんやわんや。その奇怪な能力から、一行は「妖怪の同盟軍」呼ばわりを受けるのであった。まあ、知らずにブルックを見りゃ誰だってそう思う。
 彼らを追う「オロチお庭番衆」側にも濃ゆいのが揃ってるけど、何気に15ページ目でブルックの霊魂に追っかけられて泣きべそかいてる女忍者がなんか面白い。もはや戦う人間の顔ではない。

 地味に衝撃的だったのが、半ぞうの思い浮かべた若かりし頃のしのぶの姿。
 しのぶが「あんたは…半ぞう!!?」と言っている事から、2人は忍としての知り合いなんだろう。つまりこの姿は半ぞうが聞きかじった伝聞の上の容姿ではなく、マジで20年前はこうだったという事になる。
 この「悪の女幹部」感あふれるビジュアルが、20年経つとこうなるのか。時の流れって凶器よね。

 半ぞうが「生きていたのか」と驚いているという事は、彼女は錦えもん達が姿を消してからの20年間、表舞台どころか忍の世界からも姿を消し、潜伏していたという事なのかな。
 しかしこれだけの劇的ビフォーアフターを経て、錦えもんさんはよく「しのぶだ」と気づけましたね。しのぶにとっちゃ20年でも、錦えもんからすれば一瞬の出来事だったワケでしょ。目の前の女がしのぶであると知った時の、錦えもんの反応が見たい。

 というかしのぶさん、今で何歳ぐらいなんだろう。錦えもんの「妹分」と呼ばれていた辺り、当時は20代くらいだったんだろか。この世界の女性陣、カスタードといいマザー・カルメルといい、40代ぐらいだと大して老けずに若さを保ってそうで、「熟女」の印象ないんだけどね。
 まあアレか、ワイドナショーに出てる佐々木アナウンサーとかも、東野さんの「妹分」って言われてるしな(無関係)。半ぞうの思い描いた姿の時点で、30代ぐらいだったのかもしれない。50歳ぐらいになってくると、いくらONE PIECE世界の住人でも歳相応に老けてくるイメージだし。

 そしてそんなしのぶと共に潜伏していたナミさんだが、ビッグ・マムから奪ってきたゼウスを用いて、なんと彼女の技である“雷霆”まで模倣してしまった。
 とは言っても、その技の概要は“ゼウス・ブリード=テンポ”の時とそう変わらず、拳にゼウスを纏って殴りつける様な技であった本家の“雷霆”とはほとんど別の技という印象。たぶん、“忍法”の響きに合わせて、それっぽく和名にしてみただけなんだろう。

 ……これで本当に本家と同等の威力を叩き出せていたら凄すぎるな。ナミさん、戦闘員としての力量がどんどん上がっていく。まさか戦闘面において、彼女にロビンを救い出すなんて役割が回って来る様になるとはなぁ。



小紫への“武士の情け”

 前回の引きにて刀を抜き、それを誰に対して振り下ろすのか……と気になっていた狂死郎だが、なんと小紫を一太刀に斬り捨ててしまった。
 将軍への反逆を許さないという「鉄の掟」を守るためとはいえ、城内は割とドン引きな空気になっていらっしゃる。ついこないだ、酔っぱらって将軍の悪口を言いまくってたのはどこの誰でしたっけ。

 ……と言っても、まだ登場してほとんど時も経っていない小紫が、こんなにアッサリと退場、というのも考えにくいので、小紫は何らかの手段で生き残るんだと思う。
 逆三日月の札の件もあるし、この「光月家が復活を遂げる」という大事な時期に、命を投げ出す様なマネをするのはいくら何でも無謀すぎるのでは……と思われたが、それも自らが生き永らえる術をきちんと用意した上での事だったのかもしれない。

 まあカイドウにズタズタにやられたお玉が「手当したら助かりました」で済まされる漫画なので、こちらも「まだ息がある」パターンになる可能性もあるが、とりあえずここは小紫が何らかの手段で意図的に死を回避しているものとして考えてみる。


 可能性としてありそうなのは、以下の3つかな。

1.小紫の能力による生還
2.斬られた小紫自体が偽物
3.狂死郎による偽装死


 1に関しては、狂死郎は本気で彼女を殺すつもりで刀を振るったが、小紫自身が何かの能力によって死を回避したというパターン。
 ただ、どこぞの「必殺ケチャップ星」の様なノリであの場を誤魔化し切れるとも思えない(遺体を片付けようとした時にすぐバレる)から、可能性があるとすれば小紫自身の悪魔の実の能力によるものという事になるかな。

 しかし……ブルックの“ヨミヨミの実”がすでに存在する以上、蘇生能力の様なものが他にも存在するとは考えにくい。マルコの“トリトリの実 モデル不死鳥フェニックス”の様に、自らの肉体ダメージを治癒できる能力などであれば死を免れる事はできるだろうが、死体を演じている間は動く事ができないのだから、結局はこの場を切り抜ける事が出来ているとは言い難い。

 実際に心臓を止め、任意のタイミングで再度動かす事ができるぐらいの能力でなければ、協力者なくしてこの状況を打破する事は難しい。よって、「小紫が単独で死を偽装した」というのは、ちょっと難しいんじゃないかな、と。
 なのでこのパターンであった場合、死体を演じる小紫を運び出す役割の人物が、どの道セットで必要になってくるんじゃないかと思う。


 2番目のパターンは、そも、この叩き斬られた人物が小紫ではないという逆転裁判の如き方向性の思考。
 お偉いさんの「影武者」なんかは時代劇じゃよくあるパターンだし、これだけの忍者が集まっているのだから、忍法“変わり身の術”なんてものがあってもおかしくはないかもしれない

 しかしこれはこれで問題がある。ワノ国一の美女である小紫に成りすませるような人物など、そう簡単に見つかるワケがないという事だ。
 それこそ“マネマネの実”や“九尾の狐”の能力など変身能力、“ミラミラの実”の投影能力の様なものを使えば可能だろうが、結局のところ悪魔の実の力に頼る事になる以上、普通の人間では不可能。
 何より、じゃあ大層な「武士の誇り」を掲げたあの女は誰やねん、という話になってくるし、そもそもそんな大掛かりな芝居を打ってまで何がしたかったんや、って事にもなってくるので、可能性はかなり低そう。

 ただまあ……色々無理のある話だけど、ぶっちゃけキャラ的には好みではあるんだよな……。武士としての生き様を見せる事で小紫の心証を上げさせ、その上で実際の小紫はやはり武士の誇りなど微塵も興味を持たず、他者を平気で踏み台にする……という二段構えの悪女キャラ。良くないっすか。
 いや、シナリオとして無理があるのは分かってるし、王道漫画のONE PIECEでそんな展開をやるとも思えないけども。


 というワケで、個人的にはやっぱり3番の、狂死郎がひと芝居打って小紫の死を偽装しているというのが、一番それっぽいんじゃないかなぁと。
 彼女を斬った張本人、かつオロチの陣営内でも大きな力を持つ狂死郎がグルであれば、遺体の片づけと称して小紫を逃がす事も難しくはなさそうだ。

 以前から「実は成長した日和なのでは」という可能性が高かった小紫だが、今回はどうやら彼女の懐から落ちたものと思われる逆三日月の札が発見された事により、彼女と光月家との関係性はかなり明確なものとなった気がする。

 ここで問題になってくるのが札を見つけた時の狂死郎の反応で、彼は畳に落ちた札を確認した時に「!」、札を拾い上げた時に「………!」という反応を見せている。

 狂死郎と小紫が以前からグルであった、つまり狂死郎自身も光月家と縁のある人物であり、逆三日月の意思に共鳴する存在であったというなら、この反応は少し妙。
 小紫がこの札を持ち、かつ裏で狂死郎と繋がっていたというなら、札の存在は当然狂死郎にも伝わっていたハズ。となれば札の存在に今更驚く様な事があるハズもなく、つまりこの札を拾った際の反応は「あっぶね!小紫のやつ大事な札落としてるやん!!オロチより先に見つけて良かった~しまっとこ。」という「!」だったという事になる。そんな人騒がせな事あるかい。

 また小紫がこのタイミングを利用し、故意に狂死郎へこの札を渡した、というのも考えにくい。彼女は狂死郎の遊郭の出身であり、2人で会うタイミングを作ろうと思えばいくらでも可能だったハズ。わざわざオロチ陣営の連中がわんさか見ているこの場で、あえて札を渡すメリットはない。

 とはいえ、1人で外を出歩く事の少ないであろう小紫が札を受け取れるタイミングというのも限られていそうなもの。実はこの札も、宴会の本当に直前、都に現れたという丑三つ小僧により、小紫の手に渡されたばかりの札だったという可能性もある。
 それなら、これよりも前のタイミングでは狂死郎に渡せなかったのも分かる。札が狂死郎の手に渡ったのが事故ではなく意図的なものであったとして、そのタイミングはこの宴席の場が最速だったのかもしれない。


 正直、読んでいて感じた「なんとなくの印象」レベルのお話を含んでいるのでアレだが、これらを纏めると個人的には、この一件は「狂死郎による偽装殺害」であるとした上で、「しかし狂死郎は、札や反乱の存在をこの時に初めて知った」というのがファイナルアンサーかな。
 以前、自身の屋敷で光月家や赤鞘を嘲笑っていたのも、狂死郎にとって彼らがもはや「過去の存在」でしかなかったからなのかもしれないし。

 狂死郎が小紫の死を偽装したのは、あくまでも自身の遊郭から出た花魁である小紫が、このままオロチに殺されてしまう事を惜しんでのもの。
 小紫の性格を知る狂死郎は、小紫がオロチに命を乞う様な事をしないと分かっていた。いくらオロチが本心では彼女を殺したくないと思っているとはいえ、このままではいずれ、小紫を殺さざるを得ない状況となってしまう。そのため、狂死郎は自らが彼女を斬って見せる事で、小紫を逃がす事を画策した。
 同時に、狂死郎と長らく共に生き、同じく彼の性格をよく知り、信頼を置く小紫は、彼が自分を生かすために動いてくれる事を計算に入れて行動していたんじゃないかな。


 シナリオとしてはこうだ。
 20年前、おでん城からなんとか逃げ延びた光月日和は、いずれオロチを討つための手助けを目的に遊郭へと入り、小紫として長い年月を過ごす。そして兄や錦えもん達が帰って来ると予言されたこのタイミングになって、赤鞘の武士の仮の姿である丑三つ小僧から、反乱の時を示す逆三日月の札が届く。
 しかし、花魁としてワノ国全土から注目される身である彼女が、潜伏期間中である兄たちと下手に接触するわけにはいかない。

 そんな時、オロチ主催の宴席にて事件が起きた。自分の禿であるおトコが、オロチに殺されそうになってしまったのだ。憎からず思う禿であるトコを、みすみす殺させたくはない。何より、ひ弱な童に手を上げる様な蛮行を、自分の中の武士の魂は見過ごす事ができなかった。小紫は思わず立ち上がる。そしてその時、彼女は同時に一計を思いついた。この件を利用し、小紫という存在を抹消しようという策だ。小紫は死んだ。そう世間を欺く事ができれば、自分は晴れて光月日和として、身を隠して兄たちと合流する事ができる。彼女は自分の死を偽装する事で、自由の身となる事を考えたのだ。

 そのための策として、必要なのが協力者の存在だった。その人物として、白羽の矢が当たったのが狂死郎。彼の遊郭から出た小紫は、狂死郎という人間の性格をよく知り、信頼も置いていた。彼が小紫に目をかけていたのであれば、気の短いオロチのもとへと送り出すにあたり「何かあった時はおれが何とかする」ぐらいの事は、示し合わせていたのかもしれない。
 小紫は狂死郎が動いてくれる事を信頼し、事実、その通りとなる。彼は小紫の殺害を偽装し、結果として小紫という人間はワノ国から抹消され、彼女の思惑通りに……という運びだ。
 札が狂死郎の目に留まったのが事故だったのか故意なのかは分からないが、仮に故意であれば、小紫からすれば信頼のおける実力者である狂死郎を味方に引き込む最初にして最後のチャンスだったのかもしれない。
 

 ……長々と妄想シナリオを喋って来たけれど、個人的な好みとしては、狂死郎は敵が良いです。
 ここ2週間でめちゃくちゃ株があがったというか、凄いカッコ良くないですか、この人。オロチ陣営、敵キャラクターとしての役者が不足気味なんで、こういう侍は敵に回って欲しいんだよな。錦えもんと本気でやりあって欲しい。

 心からオロチに忠誠するワケではなく、何らかの目的をもって暗躍する第3勢力的な立ち位置もアリね。札を入手して反乱の日取りを掴んだ事で、それを利用してオロチを始末し、将軍の地位に取って代わる……なんて立場も、悪くないんじゃないですかね。



ノリノリおリンさん

 記憶を失いあら大変、ってなビッグ・マムですが、なんか人格までマトモなヤツっぽくなってました。
 チョッパーに「おて」とかやってる辺り、珍獣好きは相変わらずなのかもしれんけど。

 そしてこんな状態のビッグ・マムが、ルフィらが収監される兎丼に向かうってんだから、こりゃもう混乱必至の状況ですよ。どえらい事になってはる。

 兎丼へは玉(モモと菊もかな?)も同行するみたいだけど、チョッパーが言う様に記憶が戻ってしまえば一環の終わりという大型地雷。しかも、現在は大人しくしてるけど、この人の場合「成長の過程で狂って行った」というより、天性の破壊者だからね。幼少期からなんの悪気もなく人を殺しかけてたんで、記憶があろうがなかろうがヤバい事に関係はないっていう。

 あ、そういやビッグ・マムが被ってるナポレオン、完全に黙っちゃってますね。マムの意識とリンクしてるから、マムの記憶が吹っ飛ぶと同時に機能停止しちゃったんだろか。
 でも、ゼウスは普段と変わらず「命ある雷雲」として動いている。これはゼウスの支配権が、完全にナミに移ってしまっているせいなんだろうか。理屈がイマイチ分からないけど、ホーミーズ側の意思の問題とか、ビッグ・マムから一定の距離を離れると、支配の影響力が弱まってしまうとか……?


 しかしこの中で唯一ビッグ・マムの恐ろしさを体験しているチョッパーとしてはたまったモンじゃないだろうけど、読み手側としては面白い展開。これで兎丼における戦線に、色んな不確定要素を持ったカードが追加されたワケだ。

 ルフィは記憶を失った状態のビッグ・マムと戦おうとはしなさそうだが、打倒四皇を掲げているキッドがどう動くかは分からない。「今狙うべきはカイドウ」とスルーするかもしれないし、逆にこれを好機と見て襲い掛かるかもしれない。そうなれば止めに入ったルフィとキッドが一戦交えるなんて展開も予想出来るし、収監した奴隷たちの心を折る任務を任されているクイーンが現れるなんてこともあるかもしれない。
 どう転ぶかまったく分からない兎丼戦線、ワクワクする。強いて言うなら、こんなカオスな現場でルフィ救出を任された雷ぞうさんはちょっと可哀想ね。


 ……しかしお玉ちゃん、きみ結構アグレッシブね……。きみ数日前に、四皇の一角に殺されかけてた身の上ですよね。ケロッとしてる上に、今度は敵の強制労働所に自ら乗り込むってあなた……。