ワンピースタワー3周年記念として配布されている「333巻」の配布方法について、思った事を書いています。
はっきり言ってあまりポジティブな内容ではないので、閲覧の際はお気を付けを。 

ちなみに執筆者当人は333巻を入手していないので、公式から宣伝されている以上の内容には言及できません。



 「東京ワンピースタワー」というテーマパークをご存知だろうか。 
 東京タワーの内部にて行われている、ワンピースに関する展示物やアトラクション、レストラン等を内包したリアルイベントだ。

 特にルフィ達に扮した俳優陣が演じ、アニメのキャスト達が声をあてる事で繰り広げられる「ONE PIECE LIVE ATTRACTION」は、その役者達の完成度やド派手な演出などでかなりの人気を博している。
 かくいう自分も、そのライブアトラクションの演目として、原作者の尾田氏が監修しオリジナルキャラのデザイン等を担当したという第3弾「PHANTOM」が公開された際には足を運び、その圧倒的な演出やパフォーマンスに魅了されたクチだ。

 今回、このワンピースタワーが、2018年3月をもって3周年を迎える事となった。一つの漫画作品のみをモチーフにしたテーマパークが3年間も続くというのはスゴイ事で、またしてもワンピースという作品のもつパワーや人気を再確認する事となった。

 そして3周年を記念し、LIVE & PARK PASS(テーマパークの入場券と、上記のライブアトラクションのチケットをセットにしたもの)を購入、入園した客に対し、特典が配布される事になった。

 それが「ONE PIECE 巻三三三」。

 映画「STRONG WORLD」の入場特典として配布された0巻、「FILM Z」の1000巻、「FILM GOLD」の777巻に次ぐ、入場特典としてのコミックスだ。
 公式サイトの情報によれば、「東京ワンピースタワーの3年間がぎっしり詰まった、秘話満載の1冊」となる内容であるらしい。
 配布日はちょうど、この記事を執筆している3月9日からとなっている。

 これだけならば、「ワンピースタワーが好きな人に向けたサービス」として平和的に終わった話だった。が、そうは行かなかった
 なぜならこの「333巻」が、「ワンピースタワーのファンブック」のみに完結する内容ではなかったからだ。

 時は戻って3月7日、この3周年を記念し、ワンピースタワー内にてPR発表会が行われた。その時のレポートは、「ONE PIECE.com」内の記事にて確認できる。(→リンク
 発表会では、当然配布予定の「333巻」の内容についても触れられた。

 その中には、原作コミックスの人気コーナーである「SBS」も収録されており、一例として麦わらの一味によるサインが公開されているとの事。
 この「サイン」とは、原作漫画内で一味のファンであるバルトロメオが彼らから貰ったもの(別名:神の雫)であるが、作中ではその時同行していなかったナミ、サンジ、チョッパー、ブルックのものは見る事ができなかった。このSBS内では、彼ら4人の神の雫サインが初公開されているという。

 この情報を見た時、個人的にはうん? と首を傾げた。
 これ、「ワンピースタワー」関係ないな、と。
 これは「ワンピースタワー」ファンだけではなく、「ワンピース」そのもののファンであれば見てみたい情報のハズ。これをタワーでしか手に入らない本に載せちゃうのか、と思ったのだ。

 とはいえ、確かにこれはコアなネタ。本編に関わるタイプの内容ではなく、ファンサイドの意識としてもあくまで知識として持っておきたいという程度のもの。こういったものなら、外部のファンブックで公開してしまうのもまあ、数歩譲って頷ける事ではある。

 そして3月8日、編集部から定期的に行われている、ワンピース担当編集のお二人による生配信が行われた。話題の中心は、当然「ワンピースタワー3周年」および「333巻」のお話。

 こちらの配信にて、333巻に載る内容が更に明かされた。
 簡潔に言ってしまえば、333巻には、本編に関わる、ファンなら気になる情報が載っているという。
 配信で語られた言葉を引用するなら、「あのシーンのあの人のアレってああだったんだ」という様な要素が、この333巻のSBSで分かるというのだ。
 そしてその情報は、おそらく他では書かれない事らしい。


 これはハッキリ言ってかなりの悪手だと思う。
 記念本とは言え、この333巻の立ち位置はあくまで入場券のオマケだ。
 編集部や企画サイドがどういう売り方を考えていようが、ハタから見た感じ方としては「特典」は「本編」たりえない。なんたらマンシールよろしく、オマケのシールのみを抜き取ってチョコ菓子を捨ててしまう等の事態はあってはならないのである。
 つまりこの記念本は、「ワンピースタワーを見に来た人がオマケで手に入る本」および、「記念本もついてくるしこの機会に行って見ようかな」と来場を後押しするものであるのが、相乗効果としてベストな立ち位置であると思う。

 だが、この宣伝の仕方をされてしまう事で、その関係性は一気に崩れてしまう。
 「本編に関する事が書かれるなら、別に興味ないけどワンピースタワー行かなきゃなぁ」という層が飛躍的に増えてしまうのだ。
 確かに短期的に見れば売り上げは伸びるかもしれない。しかし、そんな消極的な理由でテーマパークに遊びに行ったところで、素直に楽しむのは難しい。
 むしろ、本だけもらったらさっさと帰るという人だって現れてしまうだろう。そして、この売り方ではそれを責める事もできない。本来なら来るつもりのなかった人を無理やり呼び込む手法だからだ。

 勿論、「初めは乗り気じゃなかったけど行ってみたら楽しかったよ」という人も現れるかもしれない。当然、仮にそうなってくれればそれは好ましい事で、そういった声が多数派になってくれるのなら、こういった配布方法にも意味があったと言えるだろう。
 しかし、そもそも「本だけもらったら帰ろう」と最初から思っている層には、そういった気変わりは発生しようがないし、結果的に行かなかった・行きたくても行けなかった層にポジティブな気持ちが生まれる事はまずあり得ない

 確かに、劇場版アニメの特典として、これまでも記念コミックスは配布されてきた。しかしそれらは基本的に「劇場アニメの副読本」という立場から逸脱したものではなかったし、元々映画自体が原作と連動する内容として制作されたものだった。
(まあ、シキやクザンを劇場版で登場させてしまった事自体には少々思う所もあるが、それは別の話。)

 それに、「劇場アニメ」と「テーマパーク」では、来場のハードルが遥かに異なる
 ワンピースほどの巨大なコンテンツになると、劇場アニメは全国のあらゆる映画館で上映される。それでも地方によって格差はあるだろうが、東京の1か所にしかないテーマパークを訪れる難易度の比ではない。

 また、両者はそれぞれ原作漫画を元としたメディアミックスであるが、漫画のアニメ化、劇場アニメ化事態に批判の声が挙がる事はそうそうない。内容の出来不出来による批判はあっても、アニメ化それ自体はおよそ好意的にみられる事が多いだろう。

 だが、ワンピースタワーにて行われるライブアトラクションは、現実の俳優陣によって行われるもの。要するに舞台化の様なものだ。実写映画化ほどではないが、舞台化、ありていに言ってしまえば二次元が三次元になる事への反発は未だ少なくなく、人によっては出来れば見たくない、という人もいるだろう。
 勿論ワンピースタワーの場合、声にアニメの声優陣を使ったり、プロジェクションマップにより3Dで描かれるキャラクターが登場したりといった演出によりその敷居を取り払ってはいるが、それでもやはり見たくない、興味がないという人はでてくる。が、333巻が欲しければ行かなければならない

 余談だが、以前「鋼の錬金術師」の実写映画が公開された際も、入場特典として原作に関するファンブックの様なものが配布されたと聞く。自分はハガレンに関しては全く詳しくないので内容には言及できないが、その時も「実写化は嫌だけどコレのために行かなきゃなぁ」という声を多く耳にした。ハッキリ言って内容がどうであれ、そんな消極的な理由で嫌々見に行って、公正な目で内容を判断できるワケがない。確かに興行収入は増えるかもしれないが、それによって内容の評価を無意味に低下させてしまう愚策だと言える。まさかワンピースでも似た様な事が繰り返されるとは。いや、向こうに比べたらタワーメインの本だからマシかもしれないけど。

 じゃあ舞台は見ずにテーマパークだけ楽しめばいいのでは? と思っても、そも333巻の入手にはライブチケット付きの入場券が必須。勿論買うだけ買って見ないという選択肢も可能だが、折角大人1枚3000円という決して安くないお金を出したのだから、見なければ勿体ないと思ってしまうのが人情だし、仮に見ないという道を選んだ場合今度は舞台に空席が目立つ結果となる。このライブは観客にサイリウムの様なものを持たせ、それを振ってもらう事も演出のひとつに入っているので、空席が生まれる事は普通の舞台や映画以上のマイナス要素となってしまう

 ついでにテーマパーク部分に関しても、家族連れ、友人連れで来る分には十分楽しめるが、流石にだいの大人が1人で楽しむ様な類のものではない。その辺りも、来場のハードルを高めていると言える。

 また、コレは自分にも当てはまるのだが、来場特典が付属する期間よりも前にタワーを1度訪れてしまった場合も、「じゃあもう1回行こうか」と思える人と思えない人は分かれてくるだろう。ちなみに、自分は後者だ。

 ・・・そろそろ、何故今回、こんな愚痴まみれになっている記事を書こうと思った理由を述べておく。
 このテの、「一部地域でしか手に入らない」「数量に限りがある」タイプのブツにはつきものだが、今回もひでぇんだ、転売が
 ちらほらと見掛けた限りでは、配布が始まった当日から何件もの出品が行われ、酷いものでは5万円という法外な値段での取引をしようとしている所さえあるらしい。

 別に、転売行為そのものの是非をここで論じるつもりはないし、例えば家族連れで入場し、複数貰ってしまったものの余りを出品するというなら、まあ致し方ないかとも思う。
 だが数千円、数万円という値をつけるのは明らかに転売目当ての出品だし、この場合、そういった行為が横行するのには配布方法の問題点が大いに関係しているだろう。
 数量がそこまで少ないものではないとはいえ、入手のハードル、そしてそこに書かれているであろう情報が欲しいと思えば、人によっては転売に手を出す以外の道がない。そしてそのハードルを乗り越えてタワーを訪れても、上で書いて来た通り決して皆が幸せになれる様な仕組みとは言い難いのが現実である。

 勿論、高額な転売そのものを擁護する気はない。この本が、ワンピースタワーやライブアトラクションが好きな人だけに向けた本であれば問題はなかった。ワンピースタワーが好きな人というのは=行った事があるという事だし、それならば再度タワーを訪れるというハードルも、まあべらぼうに高いものではなくなるだろう。

 だが今回の333巻は、明らかにそれ以外の人、つまり「ワンピースタワーには興味がないが、ワンピースという漫画は好き」という人までをターゲットとしてしまっている。
 企画サイドがどういった意図でこの本を編集したかまでは我々素人には知り様がないが、少なくとも先だっての編集部の配信では、「この本の目玉はSBS」であるという旨の発言もされていた。本来なら「ワンピースタワーのための記念本」である筈が、ファンサイド、編集サイド共に、目玉となるのは「原作ワンピースに関する情報」であるとの認識を持ってしまっているのだ。これでは折角3周年を迎えたワンピースタワーにとっても良い状態ではない。


 まとめると、今回の配布の問題点として、
・在住する地域によっては、正当な手段では手に入れにくい
・見る人を選ぶタイプのメディアミックスであるにも関わらず、原作に影響する特典をつけてしまっている
・本来ならワンピースタワーの記念本の筈なのに、タワーとは関係ない部分が目玉であるかの様な宣伝方法
・結果として、みすみす高額転売の餌食となる様な配布方法としてしまっている

 等の点があると思う。
 自分は本自体を入手していないので、件のSBSが実際にどのくらい原作に影響する内容なのかは分からないが、少なくとも「原作に関わる、ここでしか見られない内容」と宣伝してしまった以上、内容がどうであろうが斯様な問題点は避けられない。

 何より、一度自分でも足を運び、その演目や展示物を楽しんだ身としても、東京ワンピースタワーが特典本のオマケに成り下がるという事態は好ましいものとは思えない
   そもそもがタワーの3周年を祝うための記念の本により、相対的にタワーの価値が下がるなんて本末転倒もいいとこじゃないか。

 正直、こと「333巻」に関しては、こういった宣伝のもと配布がスタートし、かつ実際に入手困難な層を狙った転売行為も横行している状況が出来上がってしまっているので、今更何を語ったところでどうにもならない事ではある。
 願わくば、今後こう言ったメディア展開を行う際は、原作サイドと他メディアの付き合い方をひとつ、考えて戴きたいものである。


 ・・・というか、SBS出張版の部分だけでも、今後も出るであろうデータブック系(REDとかBLUEとかのやつ)に載せた方がいいと思う。読者の地域によって知識に差が出るというのは、シンプルに漫画作品の展開方法としてよろしくないと思うし・・・。