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在りし日のポートガス・D・エースを主人公としたワンピース小説「novel A」が発売されたので、軽く感想を。
と言っても、ワンピースマガジンの連載時点で読了済みではあるんだけどね。当時はこのブログ、立ち上げてなかったからね。



さて、エースを主人公とした小説という事ですが、この第1巻で語られる内容は「スペード海賊団 結成編」と言う事で、エースがゴア王国を旅立ち、スペード海賊団として名を挙げていく際の物語が描かれます。

とはいえ 、全3話で成り立つ本作の物語は、タイトルほど「結成時」のエピソードに重きを置いた内容ではなく、どちらかと言えばエースと、イスカなる女海兵の間に生まれた奇妙な絆を主軸とした印象。

スペード海賊団時代のエースは原作ではほとんど描かれておらず、本作に登場する人物は当然の様にオリジナルキャラがほとんど。ただし、これらは原作者の尾田氏による設定画もきちんと描かれており、公式のキャラクターと見ても問題はなさそう。

特に重要なキャラクターとして、エースの初めての仲間であり右腕的存在であるマスクド・デュースなる人物が登場するのですが、基本的には「語り部」としての要素が強く、彼本人には際立った個性や強さは見受けられず。この辺は、読者と同じ目線を持たねばならない1人称小説としての宿命とも言える。

ちなみに、マガジンでも掲載されたエースの仲間達やイスカの設定画は、本書にも載せられている。
比較してみたワケではないので加筆・修正部分等あるかは分からないが、書き下ろし部分などは特にない模様。
オマケでコラムページみたいなものはあるが、特に真新しい情報はないかな。





〇第1話
 処は東の海。
 天国に一番近いとすら称される美しすぎる島・シクシス。
 脱出不可能な、海のアリ地獄とすら揶揄される島周辺の特殊な海流は、近づく船を島へと引きずり込み、1度入ったが最後2度と出る事はできないという。

 というわけで第1話は、そんな孤島に漂着してしまったエースと、とある男の出会いの物語。
 まあその男ってのが、後にマスクド・デュースを名乗る事となる男なわけですが、特に第1話はこのデュースの生い立ちや人柄の紹介がメインとなっている。

 優秀な医者である父と兄の間に立ち、落ちこぼれとしてマトモな会話すら交わして貰えなかった幼少時代。
 そして失った居場所を求めた彼は、「ブラッグメン」という本と出会い、冒険家となる道を選んだ。
 ブラッグメンってのは、原作本編にも登場した書籍ですね。ルイ・アーノートなる探検家によって書かれた、リトルガーデン等の島々の事を書いた日誌集です。
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ONE PIECE第13巻より






 デュースの人物像としては、一言で言えば「人間臭いヤツ」という印象。
 劣等感や疎外感から、家族に対しては複雑な思いを持ちつつも、決して憎み切る事はできず。
 冒険家として海に出るも、故郷では冒険家は賞金首や海賊と同等に扱われる事を考え、名も顔も捨てるために仮面を被って行動しています。誰もいない無人島ですら仮面をつけっぱなしな辺り、徹底していらっしゃる。

 名も顔も捨て、という事ですが、このデュース、3話全てを読んでも本名が一切明かされません。以降に登場する仲間達も皆「デュース」の名で呼び、特に本名には触れず。この「過去に拘らない」空気感は、麦わらの一味のそれと共通するところがあるかもしれない。

 ところでこのデュース、「優秀な父や兄に囲まれた落ちこぼれ」「父や兄には血が繋がっている事を恥とされている」といった境遇、そして無人島での遭難、当然の如くやってくる食糧難・・・と、どこかサンジの過去と重なる部分が多い。
 デュースとサンジに設定的な繋がりはないハズなので、その意図に関しては不明だが、執筆時期等を考えてもあえて被せて描いているんだろう。


 エースに関しては、どうやらこのシクシス島に眠る財宝の噂を聞いてやってきたらしい。財宝があるならば、それを狙う強い賞金首がいるのが道理。賞金首を討ちとり、自身の名を上げるのが目的であったそうな。
 意外と、打算的に名を上げようとしてたのね、エース。
 ルフィは賞金が上がるのを喜びこそすれ、能動的に動くタイプでもなかったからそこは考え方に違いがあるんすね。

 しかし、いざシクシスを訪れてみれば、宝は見つからないわ船は海流に呑まれるわで散々な目に。あえなく漂流者の身となってしまうエースは、同じく漂流して来たデュースと出会う。
 ちなみに、この「マスクド・デュース」という名は、エースが与えたもの。頑なに本名を教えたがらない上、エースと言う名を後のペンネームに貰おうか等とふざける彼に対し、エースをもじって命名した名です。
 後に彼がエースの右腕となる事を想うと、今まで誰からも愛されなかったデュースに、名と共に新たな人生を吹き込んだとも言える。

 幼少期はなかなかの荒くれ者だったエースだが、この頃にはルフィとの交流やマキノに教わった礼儀作法等からかなり丸くなっていた様で、初対面のデュースを「友達」と呼ぶほどの気さくさを見せる。
 楽しそうに弟の話をするエース。
 一方のデュースは、その出自や現状の余裕の無さから疑心暗鬼に陥り、エースにイラだちをぶつけてしまう。
 
 幸せな家庭を知らず、帰れる場所もないデュース。対して血は繋がらずとも心で繋がる弟を持つエース。口論の末、デュースは目の前にいる男が、かの海賊王ゴールド・ロジャーの遺児である事を知ってしまうのだった。
 おお、こんな早い段階から、その事を知る人物がいたのね。

 結局、2人は別々に、シクシス島を脱する術を模索する事に。
 不器用ながらも船を作り、海流に挑むエースと、食料や水の採集だけで手一杯となるデュース。
 やがて食料も尽き、飢えも極限状態となった頃、デュースは大きな果実を手にしたエースの姿を発見する。

 飢えとは人を狂わせるもので、その時のデュースには邪な考えが横切る。
 あの男は、海賊王の子じゃないか。
 誰も見ていない無人島。同情なんていらない。
 あいつは、極悪人の息子なんだから――

 自分に言い聞かせる様に、エースを手にかけてでも食料を奪おうとするデュース。
 この辺、やっぱゼフとの回想時のサンジと被るなぁ。まあこの飢餓状態じゃ考える事は皆似た様なもんでしょうが。

 背後からにじり寄る最中、結局エースには気づかれてしまう。しかし彼はデュースを疑いもせず、船づくりを手伝いに来てくれたものと勘違い。
 自身も空腹である筈なのに、腹の音の止まらないデュースにためらいなく果実を差し出そうとする。エースの優しさに触れ、生まれや風評だけで彼を判断した己の浅ましさを恥じ、デュースは仮面の下で涙するのだった。
 
 結局、その果実は2人で分けて食する事に。
 すると、先にその実を食べたエースの身体に異変が。何とこの果実は、悪魔の実シリーズのひとつ、メラメラの実だったのだ。
 メラメラの実、実食の瞬間がここに! まさか東の海の、それも仲間の一人もいないルーキーの時点で自然系の実を食していたとは。
 ちょっとでも齧るタイミングがズレていれば、「火拳のエース」は誕生すらしなかったワケだ。
 何気に、「悪魔の実は一口目を齧った者にしか効果がない」という法則が、物語上の描写として登場したのは初めてかもしれない。次は、2つの実を食って爆発霧散する瞬間のシーンが期待されるな。いや、グロいからやっぱいいや。

 そんなこんなで意気投合した2人。しかし、2人の力を合わせても、無人島にある材料だけではあの海流を跳ね除けられるような強靭な船は作れない。
 そんな中、デュースはエースが食べたメラメラの実の能力に目をつける。
 彼が放出する炎を、物体を焼くためだけに使うのではなく、その炎の勢いだけを利用しようというのだ。

 やがて、2人は一隻の船を完成させる。
 炎を動力とし、船体を前に進める事ができる小舟。デュースはこれを「ストライカー」と名付けるのだった。
 
 互いに父親に対し、思う所のある2人。
 デュースは、残る人生をエースのために掛ける事を決める。
 初めての仲間を迎え入れ、スペード海賊団は結成の時へ。
 シクシスの海流を見事乗り越え、エースは父を、海賊王を超える事を誓うのだった。



 
 全体的な印象として、この第1話は「マスクド・デュースの物語」といった感じが強い。
 故に「エースの物語」を期待した人は多少肩透かしを食らうかもしれないが、全体の内容としては悪くない感じ。
 特に果実を巡るくだりは、エースの人柄とデュースの葛藤がよく描かれており、感動モノ。今までのエースを深く知る読者視点で見ても、彼の魅力を改めて確認できるのではないかと思う。

 情報量としては、明かされた新事実の様なものはないが、悪魔の実の能力を得たタイミングや、彼の愛用するストライカー誕生の秘話などが描かれ、そういう経緯を知れたのはありがたい。
 ストライカーに関しては、名称自体はファンブックにて明かされたものなので、もしかしたら名前を聞いてもピンと来ないファンも多いかもしれない。アラバスタ編で使ってた、一人乗りの小型ボートみたいなやつですね。
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ONE PIECE第18巻より




 ただ、本編に出て来たものの船体を見るに、流石に無人島の限られた素材で作られたものをそのまま使っているとも思えない。たぶん、後に改修を加えたか、この時のものをベースに作った2号機なんだろう。
 本編で見た時は「カナヅチの身でこんな危なっかしい船使わんでも・・・」と思ったものだが、初めての仲間と共に作った思い出の品だったのね。使い続けているのも納得と言うもの。

 ただ、このストライカーの名が明かされた「ONE PIECE YELLOW」では、「水上バイクにマストを立てた様な、小型の船の総称」をストライカーと呼ぶ、という事になっている。
 対して本作で描かれたストライカーは、制作した船にデュースがつけた「個体名」という事に。
 少々食い違っている様にも見えるが、多分この仕組みや形状の船自体がデュース達によって開発されたもので、その種類の船を纏めて「ストライカー」と呼ぶ事になったんだろう。故に、この時作られたものとアラバスタで使っていたものが別個体であろうと、双方ともがストライカーである事に変わりはないのだ。

 また、本作ではエースが、勢いに任せて自身の父を打ち明けてしまう。
 無人島での極限状態故に仕方のない事だが、それにしてもその相手は初対面であった男。事の重大さを考えると、少々迂闊な行動とも言える。
 本編では海軍がこの事実を掴んだ経緯は不明だったが、もしかしたら他のタイミングでも、エース本人がポロッと漏らしちゃったのかもしれんな。この辺の脇の甘さは、ガープやルフィを彷彿とさせるものがある。あの2人ほどヒドくはないけど。

 デュースに関しては、幼き頃には「一緒に居るとバカに見られる」と友人たちからも避けられる程だったらしいが、後にスペード海賊団では頭脳担当的なポジションに納まる事に。エースと出会って才が開花したのか、それ以前に仲間の中にろくすっぽ頭を使えるやつがいなかったのかは謎だが・・・もしくは、デュースの故郷がよほど名門揃いの土地だったのかな。サボがいた高町みたいな。

 さて、第2話以降はスペード海賊団の船長となったエースの冒険や戦いが描かれる・・・のだが、長くなってきたので分割。感想後編はまたの機会に。
(結局3話目が長くなりすぎたので、前後編ではなく話数毎で分けました。)